井上真偽「その可能性はすでに考えた」感想 〜斬新な論理の面白さの新感覚ミステリー〜
その可能性はすでに考えた (講談社文庫) [ 井上 真偽 ]
2016年度第16回本格ミステリ大賞候補となった他、「本格ミステリ・ベスト10」2016年、「ミステリが読みたい!2016年度版」他にも様々なランキングに選出されているこの一冊。
文庫版は今年(2018年)の2月に発売されたのですが、ジャケ買いならぬタイトル買いして読んでみました。
一言で言うと、「斬新」です。
クセがあるので、人を選ぶかもしれないですが、いわゆる「多重解決もの」の新しい表現を生み出しています。
”あらゆる可能性を全て否定すれば、それは「奇蹟」である。”
探偵である上苙丞はそれを証明する為に探偵をしています。
ホームズは”不可能なものを排除していき、残ったものがどんなに信じられないものでも、それが真実である。”と名言を残していますが、上丞は「まさに逆」を追い求めています。
この設定がすでに面白い。
ミステリーでは主人公級の人物(探偵役)真実を「肯定」する為に証拠を集め、反論する人物(犯人役)はその仮説を「否定」しようとしますが、このミステリーは上丞(探偵役)が他の人物(犯人ではないがライバル的存在)が仮説を立てて真実を証明しよう(「肯定」しよう)とするのを「否定」します。
事件は10年以上前にあるカルト宗教団体がが集団自殺したことから始まります。
唯一の生き残りの少女渡良瀬莉世は成長して上丞のもとにやってきます。
莉世は「自分が人を殺したかどうか」を調べてほしいと上丞に依頼します。
莉世は「堂仁(ドウニ)」という少年にとても優しくしてもらっていました。
宗教団体の厳しい戒律の中で堂仁の存在は救いでした。
ある日村を地震が襲い、そのことが原因で村の水の供給源である滝が涸れてしまいます。
宗教団体の教祖はこれを「世界の終わり」だと信者達を巻き込み集団自殺を図ります。
教祖は村の祠で信者達の首を次々と斬り始めたのだが、堂仁は莉世を連れ出し脱出を図ります。
しかし気を失っていた莉世が目を覚ますとそこには首を切断された堂仁の死体がありました。
様々な状況を考慮すると莉世以外に堂仁を殺せたものはいない。。。
上丞はこれを人知を超えた「奇蹟」だと証明しようとするが、それを否定しようと様々な刺客達が仮説を立てて「奇蹟」を否定しようとする。、上丞はそれらを「その可能性はすでに考えた」と仮説を論理で否定していくのだが。。。。
ものすごい「論理バトル」が繰り広げされます。
独特の世界観と高度な論理に圧倒されて、読むのにすごく力を使いました。
ロジックが好きな方は是非読んでみてください。
米澤穂信「満願」感想 〜脅威のミステリー三冠!心の暗部に触れる究極の短編集〜
2015年「このミステリーがすごい!」1位
2014年「週刊文春ミステリーベスト10」1位
2015年「ミステリが読みたい!」1位
第27回「山本周五郎賞」
三冠+賞まで受賞した米澤穂信さんの短編集「満願」読んで見ました。
「夜警」「死人宿」「柘榴」「万灯」「関守」「満願」の6編とても素晴らしかったです。
文庫本の解説に ”描かれる謎は決っして巨大なものでなくても、読むものの関心を引っ掛ける程度のほんのわずかなとげが生じていれば良い。それがミステリー小説の粋だ”的なことが書かれています。
このミステリーは大がかりなトリックや連続殺人などはありません。
少しの謎の正体が人の心の暗部に触れていて、短編集なのに1つ1つが濃厚です。
人が本当に守りたいもの、窮地に追い込まれた時に「何を守るか」が上手く描かれています。
自分は1話を読んだ後に一呼吸置かないと読み進めれませんでした。
むしろその余韻を楽しむ為に間を置いていました。
軽くではありますが、その6編を紹介します。
1. 夜警
殉職した川藤巡査は「こんなはずじゃなかった。」とつぶやき殉職しました。
暴走した刃物を持った男に発砲し、その男を殺してしまいますが、死に際に刺されて両者ともに亡くなってしまいます。
事件当日、川藤は兄に「とんでもないことになった。」とメールしており、そのメールを受けた兄も「あいつが勇敢に死んでいったとは思わない。」と言います。
川藤の最後の言葉の意味とは。。。。
2.死人宿
2年前に失踪した恋人佐和子を追い求めて、主人公は山奥の宿に向かいます。
失踪の原因は彼女が職場の悩みを相談していたのに、佐和子の助けを求める声に気づかなかったことにあり、主人公はとても後悔しています。
宿の女将になっていた佐和子からこの宿が自殺の名所で宿泊客3人のうちの誰かが書いたであろう「遺書」を見つけたと相談されます。
そして主人公は佐和子の助ける声に気づいてやれなかった自負から遺書を書いた人物を突き止めようとするが。。。
3.柘榴
美人のさおりは大学のゼミで出会った不思議な魅力を持つ男成海と結婚する。
2人の間にはさおりの美しさを受け継ぐ夕子と月子が生まれます。
しかし父である成海はろくに働かそうともせず、ついにさおりと成海は離婚することとなります。夕子と月子の親権は裁判で争われるが、状況的に見てさおりが有利のはずだったが。。。。
4.万灯
有名商社に入社して仕事一筋の伊丹は海外志向が強くインドネシア勤務を経て、バングラデシュの天然ガスの開発の室長となります。
バングラデシュの環境は厳しく、集積拠点として目を付けたボイシャク村のマタドールと呼ばれる長老の一人アラムとの交渉に難航します。
彼は他の国にガス資源を受け渡すつもりはありませんでした。
しかしライバル社の森下と共に開発の恩恵を受けたい反アラム派の他のマタドール達にアラム殺害計画を持ちかけられて。。。
5.関守
器用なライターである主人公は都市伝説の記事を依頼され、ネタ探しの為に4年連続で同じカーブで事故が起きていると言われる柱谷峠に向かいます。
道中のドライブインの店主のおばあさんにいろいろ話を聞き、亡くなった人達の情報を手に入れます。おばあさんは事故の事をよく知っており、記事の見通しができるのだが。。。
6.満願
弁護の藤井は学生時代に下宿していた畳屋の妙子が夫・重治の借金を取り立てる矢場を殺してしまったと聞き、恩を返す意味で弁護を引き受けます。
藤井は正当防衛を主張するが第一審では苦戦します。お世話になった妙子の罪を少しでも軽くしようと、第二審に進もうとするが妙子は夫重治の死を聞かされると突然控訴を取り下げてしまいます。結局実刑判決となったが、藤井は事件のことをもう一度考え直し始めて。。。
個人的には「夜警」「万灯」「関守」が面白かったと思います。
しかしこのミステリーは人の心の奥深くに触れているので、どの話が面白いと思うかは、自分の心の奥深くを表しているような気がします。。。
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綾辻行人「十角館の殺人」感想 〜日本のミステリー界に大きな影響を与えた一冊!〜
にわかな私は様々なミステリー書評やおすすめランキングを読み漁って、読む本を探しているのですが、綾辻行人さんの「十角館の殺人」は必ずと言って良い程、ランキングでは上位に来ています。
「ミステリーファンなら誰もが読んでいる」最高傑作!と言われている一冊です。
1987年に出版され、日本のミステリー界に大きな影響を与えブームを巻き起こし、「綾辻後」という言葉もあるらしいです。
7人の大学のミステリー研究会のメンバーは十角形の館がある「角島」を訪れます。
そのメンバーたちは互いのことを有名な推理作家の名前で呼びあっています。
十角館を建てた中村青司は四重殺人を起こし、半年前に焼死したとされています。
やがて孤島で起きる連続殺人事件。そして結末は超有名な「あの一行」。
作品が醸し出す雰囲気が素晴らしく、「これぞミステリー!」という世界に引き込まれていきます。
まさに「王道ミステリー」という感じです。
そして「あの一行」で全てを悟り、緻密に積み上げられたものが完成し驚愕しました。
たった一行にあそこまでのクオリティを出せるのは素晴らしいです。
評判などで読む前にかなりハードルが上がっていたのですが、期待を裏切りませんでした。
十角館の殺人新装改訂版 (講談社文庫) [ 綾辻行人 ]
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東野圭吾 「仮面山荘殺人事件」〜スカッと騙されるどんでん返しのミステリー〜
1990年に単行本、1995年に文庫版が発売された東野圭吾さんの「仮面山荘殺人事件」東野圭吾さんと言えば、「容疑者Xの献身」「秘密」などが有名で実写化作品も多いのですが、実写化はされていないながらもネットのファンサイトのブログなどで頻繁に名前が上がり気になったので読んでみました。
結婚式の4日前に交通事故で死亡した森崎朋美。そして舞台となるのはその関係者達、男女八人が集まった山荘。
そして八人の前に逃亡中の銀行強盗犯が逃げ込んてきます。八人は脱出を試みるが、何者かの策略によりことごとく失敗に終わります。
その中で一人が殺され、残された七人は強盗と対峙しながら、疑心暗記にかられていく・・・・
いやー、すっかり騙されました。
東野圭吾さんの作品の魅力は読みやすさと読書後のなんとも言えない余韻もそうなんですが、「タイトルの意味がわかる瞬間の感動」が大きな魅力だと思います。
一体誰か「仮面」をかぶっているのか・・・?
それを考えながら読んで欲しいです。
文庫本にして300ページ弱と比較的短くとても読みやすい展開のため、サクッと読めてしまうのですが、終盤の物語が二転三転する感じがたまらないです。
「あーこういう結末か」と思ったら・・みたいな感じになります。
いわゆる「クローズトサークル」と「どんでん返し」が同時に楽しめ、さらにサクッと読める作品です。
仮面山荘殺人事件 (講談社文庫) [ 東野圭吾 ]
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乾 くるみ「イニシエーションラブ」感想 〜必ず二度読みたくなるミステリー〜
イニシエーション・ラブ (文春文庫) [ 乾くるみ ]
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最後から二行目でのどんでん返しで有名な乾くるみさんの
「イニシエーション・ラブ」です。
合コンで出会ったマユに一目惚れした主人公を描く恋愛小説......と思いきや、
「最後の2行」で全てがひっくり返ります。
初めて読んだ時は「え?」としばらく呆然して、その後解説サイトを読み漁りました。
その時の「ここも伏線だったか〜」という驚きは忘れません。
正直ここまで「読後」を楽しむことができる小説は他にないと思います。
是非皆さんも思いっきり騙されてください。
P.S.「イニシエーション・ラブ」は映画化もしてるんですが、
「どうやって映像化するんだよ?笑」と思ってましたが実に見事でした。
そしてマユ役の前田敦子さんのハマり具合がすごかったです。
イニシエーション・ラブ (文春文庫) [ 乾くるみ ]
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イニシエーション・ラブ【Blu-ray】 [ 松田翔太 ]
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東野圭吾「白夜行」感想 〜心を失った人間の悲劇を描く長編ミステリー〜
初めまして。このブログは子供の頃から「名探偵コナン」や「金田一少年の事件簿」が好きで、最近ミステリー小説を読み漁っている管理人がオススメのミステリーを紹介していくブログです。
ミステリーを読み終えた後のなんとも言えない後味が大好きで、このブログをきっかけに少しでもミステリーファンが増えればと思っています。
文才がなく限りなく自己満足に近いですが、「この本読んでみようかな」と思って頂ければ幸いです。
前置きはさておき、このブログの紹介は一発目は東野圭吾さんの長編小説「白夜行」です。
ある殺人事件の被害者の息子 亮司と被疑者の娘 雪穂の19年を描いた悲しいミステリーです。
この小説のすごいところは、主人公2人の視点の心理描写がないのに、亮司と雪穂という2人の人間に引き込まれていくところです。
章ごとに起こる出来事を2人の周りの視点から描き、徐々にピースが積み上がっていく様は圧巻です。
なんとなく結末というか、2人の真相が見え隠れするのですがその見せ方が絶妙です。
800ページ越えの大長編ですが、飽きずに読めます。
白夜行 (集英社文庫) [ 東野圭吾 ]
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